船は港に停泊しているときには係船索(ホーサーとも呼ばれる)というロープで陸地から離れないように固定されています。
この係船索に関連して多くの死亡事故が発生していることはご存知でしょうか?
今回は、係船索の危険について説明していきたいと思います。
係船索
係船索は文字通り、船を港に係船(繋ぎとめる)ために使用されるロープのことです。
英語ではMooring Line, Mooring Ropeなどと呼ばれています。
船はもちろん海の上に浮かんでいるため、波や潮の満ち引きの影響を受け船の位置が変化します。
そのため、船のエンジンを止めたからといって、陸上で車を停車するように簡単にその場に留めておくことはできません。
よって、港で停泊するときには船を係船索で繋ぐ必要があるのです。
係船索破断に関連する事故
係船索は船から陸地に引っ掛けることはできないので、陸側の綱取り作業員という人にロープを渡し、ボラードと呼ばれる係船柱に引っ掛けてもらいます。
ボラードの写真(引用:金沢港 |金沢まちゲーション)
過去には係船索が破断することで死亡事故が発生したこともあります。
係船索が切れたからなんなんだと思う人もいるかもしれませんが、
まずはこちらの動画をご覧ください。(途中から再生するようになっています)
係船索が破断し、ロープがゴムのように跳ね返ってくる現象をスナップバックと呼びます。
この動画でも分かるようにスナップバックのエネルギーは凄まじく、人間に直撃したら即死です。
また、大型船で使われているロープは動画内で登場したものよりも大きく、破断したときのエネルギーはさらに大きくなります。
船関係者は係船索の危険さを理解しているのでテンション(張力)のかかっている係船索には近づきませんが、このことを知らない人はロープに近づいてしまうことがあります。
テンションがかかっていなければ(たるんでいる状態)係船索が破断することはないので安全ですが、もしもテンションのかかっているロープがあれば注意してください。
係船索が破断する原因
係船索の劣化
実は係船索が破断しないように、係船索にかかるテンションが大きくなった場合には、係船機(Mooring Winch)のブレーキが滑り、ロープを送り出すことでテンションを逃がす構造になっています。
しかし、ロープが劣化し耐久力が低下すると、本来は
「ロープの耐久力>係船機のブレーキ力」となっているはずの力関係が、
「係船機のブレーキ力>ロープの耐久力」となり大小関係が変化してしまいます。
その結果、ブレーキが滑ってロープを送りだす前にロープの耐久力が限界を迎え破断することになります。
これを防ぐために船上では定期的にロープの状態をチェックし、劣化が確認されたものや使用期間が長いものは順次新しいものへと取り換えています。
オペレーションミス
係船索や係船機に全く問題がなくても人間のミスで係船索が破断してしまう場合があります。
係船索の取り回しを間違えて応力集中の発生しやすい形で使用したり、係船索を固定するビットやボラード(係船柱)の表面が錆などで汚れていた場合には係船索の耐久力が低下する原因となります。
インターネット上には係船索を外すのを忘れたまま出航して係船索が破断している動画なども挙がっています…。
係船機のメンテナンス
先程、係船索の耐久力よりも係船機のブレーキ力が大きくなることで破断が生じるという説明をしました。
では、多少係船索の耐久性が低下しても大丈夫なように係船機のブレーキ力を小さくしておくとどうなるでしょうか?
この場合、係船機のブレーキ力が低下したことにより力不足となり、十分に船を港に繋ぎとめておくことができなくなります。
つまり、係船機のブレーキ力は強すぎても弱すぎてもいけないのです。
そのため、船上では定期的に係船機のブレーキ力をテストしています。
必要であればブレーキ力を調整し、強すぎず弱すぎない適切なブレーキ力となるようにしています。
以上が係船索についての説明でした。
港に行くとなんとなくボラードに足をかけてポーズを取ってみたくなる人もいるかもしれませんが、もしも周りに係船索があった場合にはその危険性を理解して事故が起きないように注意してください。
ここまで読んでいただきありがとうございました!