外航海運船員の船乗り日記

外航船員が船上(ときどき陸上休暇)で送る波乱万丈(?)な日常生活です

船首水面下にある丸い突起物!バルバスバウの役割と最近の傾向

皆さんは船首の水面下についている丸い突起物のようなものをご存知でしょうか?

この部分はバルバスバウと呼ばれています。

 

今回は、バルバスバウの役割について説明していきたいと思います。

 

 

バルバスバウ

バルバスバウとは

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バウバスバウは英語で書くと、Bulbous Bowと表記します。

Bulbous(球根状の) Bow(船首)ということで、日本語では球状船首とも表記します。

 

バルバスバウは普段水面下に存在するため、なかなか見る機会がないですが、

バルバスバウを搭載している船には船首付近にバルバスバウマークが描かれています。

これは、水面下にあるバルバスバウに気づかずに小型船などが乗り上げてしまうのを防ぐためです。

 

また、上で載せた写真には以前説明したスラスターマークも写っています。

スラスターについてはこの記事で紹介しています。 

 

バルバスバウは、Wikipediaによると、

バルバスバウの大元となる起源は、古代ギリシアの軍艦ガレー船の舳先に取り付けられた衝角であった。これらは主に海戦の際、相手軍艦の喫水線下船腹を突き破り沈没させるための兵器として使用され、現代のように造波抵抗の減衰を目的としたものではなかった。

(参考:バルバス・バウ - Wikipedia

と記載されています。

 

つまりバルバスバウは、元々は戦争の際に船の体当たりの威力を大きくするために作られたものだということが分かります。

 

バルバスバウの役割

現在使用されているバルバスバウの役割はもちろん体当たりの攻撃力を上げるためではありません。

 

Wikipediaの引用の中でも少し触れていますが、バルバスバウは造波抵抗を軽減する役割をもっています。

 

造波抵抗とは

船が水中を進むとき、船首部分では水を押しのけて進むことによって波が生じます。

このとき生じる波のことを引き波と呼びます。

大型船の引き波は小型船のものと比べて大きく、引き波によって小型船舶が転覆したり、係留してある船舶の係船索を破断する危険などもあります。

 

このように引き波は大きなエネルギーを持っているのですが、エネルギー保存の法則から考えて「引き波を生み出すエネルギー=船が失ったエネルギー」ということになります。

そして、この引き波によって生じるエネルギー損失を船が推進するときの抵抗と見なし、造波抵抗と呼んでいます。

 

水泳を習ったことのある人なら「バタバタと波をたてない」という指導を受けたことがあるかもしれませんが、それは波を生み出すのにエネルギーが使われていて、推進力になっていないからです。

 

造波抵抗を軽減する原理

バルバスバウが造波抵抗を軽減する原理は、波の干渉作用を利用しています。

 

水面下で船首から突き出しているバルバスバウに水流が当たることで波が生じます。

この波と、船首が水面を押しのけることで発生する波(引き波)は逆位相となるように計算されています。

そのため、二つの波が合わさることで互いに打ち消し合い、合成波は小さくなります。

 

結果的に造波抵抗が小さくなり、燃費低減や速度向上を図ることができるという訳です。

 

最近のバルバスバウ事情

ここまでの説明を聞くと、バルバスバウを設置することは船にとって良いこと尽くめであるように感じるかもしれません。

しかし、実際にはバルバスバウにも欠点があります。

それは、設計で考えられた船速でないと十分な効力を発揮しないという点です。

 

近年は、省エネ、経済運航というのが海運業界の主流になっていて、わざとスピードを落としてゆっくりと走る減速運転がほとんどの船で行われています。

 

一方で、通常バルバスバウは主機を80%負荷程度で使用して高速で航行する場合に最適となるように設計されています。

そのため、減速運転を行っているときにはバルバスバウの作用は少なく、むしろ逆に燃費の悪化に繋がる可能性もあります。

 

そこで、近年は減速運転に合わせてバルバスバウを改造した船バルバスバウがない船なども登場しています。

 

バルバスバウの改造

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当社独自技術でコンテナ船の省エネ運航を推進|日本郵船 (nyk.com)

ほとんどの船は先ほども説明した通り、高速で航行する際をターゲットとしてバルバスバウを設計しています。

そこで、高速航行向けに設計されたバルバスバウを改造し、減速運転のスピード域において造波抵抗低減効果を発揮するように変更した船も存在します。

 

この場合、逆に高速航行を行った場合の抵抗削減効果は期待できませんが、時代のニーズに合った船となっています。

 

バルバスバウのない船

 

バルバスバウをなくし、垂直船首形状にした船もあります。

中低速で航行する場合にはバルバスバウを用いなくても、船型を工夫することで十分造波抵抗を軽減することができます。

 

川崎重工が開発したSEA-Arrow (Sharp Entrance Angle bow as an Arrow)はその一例です。(参考:高性能船型 | 舶用技術 | 川崎重工業株式会社

 

バルバスバウの場合には喫水の変化の影響を受けやすく、船が軽くなりバルバスバウが水面上に現れている状態では逆に燃費が悪くなってしまいます。

しかし、垂直船首形状の場合には喫水が変化しても燃費への影響が小さいというメリットもあります。

 

 

 


以上が、船舶に搭載されているバルバスバウについての説明でした。

 

普段なかなかバルバスバウを直接見る機会はないかもしれませんが、

バルバスバウには少しでも船の燃費を良くするために色々な工夫がされています。

今度船を見る機会があれば、船首付近のバルバスバウマークにも注目してみてください。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!