普段から車を良く使っている人は車の燃費が気になる人も多いと思います。
外航船には巨大なエンジンが搭載されていて、その燃料代も非常に大きなものになります。
皆さんは外航船の燃費がどれくらいかかるかを知っていますか?
今回は巨大外航船の燃費について説明していきたいと思います。
外航船に使用されている巨大エンジン
船舶主機の種類
船舶の主機(推進力を生み出すために使用される機器の総称)はいくつか種類があります。
小型ボートなどではガソリンエンジン、
小型内航船では4ストロークディーゼルエンジンなどが主機として使用されています。
一方、外航船などの大型船舶では「2ストロークエンジン」、「蒸気タービン」、「電気推進(モーター)」、「ガスタービン」が使用されています。
各主機についての詳しい説明は別の記事で紹介したので参考にしてみてください。
最新船舶エンジンのスペック
現在はDual Fuel Engine、水素エンジン、アンモニア燃料エンジンなど様々なエンジンが研究開発されていますが、
大型船舶のエンジンには主に2ストロークエンジンが使用されています。
大型船舶エンジンのメーカーとしては「MAN DIESEL」が有名であり、
私の知る限り、現在MAN DIESEL社が開発している舶用エンジンで最大の物は
「12G95ME-C10.5」です。
これは12シリンダ、ボア径95cmの2ストローククロスヘッドディーゼルエンジンです。
(*上図は9S90ME-GIなので異なるモデルです)
このエンジンの最大出力(NMCR)は82,440kW、
環境問題対応のDe-rated MCRは63,636kW、
常用出力(NCR)は54,941kWです。
数字にしてみると船舶エンジンの大きさを改めて実感します。
船舶エンジンの燃費計算
さて、最新の大型舶用エンジンの出力が分かったところで本題の燃費計算に入っていきたいと思います。
燃費計算をする上でもう一つ必要なデータが燃料消費率(Fuel consumption)です。
燃料消費率
燃料消費率とは[g/kWh]という単位で表される数値で、
単位時間当たりで1kWの出力を生み出すために必要な燃料の量(g)を示しています。
つまり、この値が小さい程効率が良い、燃費の良いエンジンということになります。
また、燃料消費率はエンジンの負荷によって異なります。
一般的には常用負荷(85%MCR)において燃料消費率が一番低くなる(効率が良くなる)ようにエンジンは設計されています。
外航船で使用されている大型舶用エンジンの燃料消費率は大体160台後半ぐらいですが、
最新のエンジンであるG95ME-C10.5の燃料消費率は163 g/kWhというデータがあります。
船舶エンジンの燃料消費量
ここまでの情報を利用すれば最新の舶用エンジンの燃料消費量を計算することができます。
12G95ME-C10.5の常用出力は54,941kW。
そのときの燃料消費率は163 g/kWh。
よって、
つまり、常用出力で船を動かすためには1時間当たり8.96トンの燃料を消費することになります。
仮に24時間常用出力で走行した場合には約215トンの燃料を消費するという計算です。
「一日で燃料215トン!」と言われても値が大きすぎてイマイチ分かりづらいと思うので、
燃料代に換算して考えてみようと思います。
毎日燃料の価格には変動がありますが、現在船舶エンジンの燃料として主流であるLSFOの値段は1トン当たり約500 US$(5万円)とされています。
先程の計算結果を利用すると1日の燃料代は約1000万円ということになります。
お金にしてみるとその消費量の凄まじさが実感できると思います。
船舶エンジンの燃費(km/L)
最後に本題の燃費(km/L)についても計算してみようと思います。
常用出力で航行した場合の船の速度は気象海象や船体の汚れなど様々な要因が重なって変化するので一概に決めることはできません。
しかし、今回例として取り上げた大型エンジンを積載するような船は巨大なコンテナ船などの場合が多く、
設計段階では常用出力で22 knots程のスピードが出るようになっている場合が多いです。
そのため、今回は常用出力を出したときの船速は22 knotsと仮定して話を進めます。
1 knot = 1.852 kmなので、この場合の燃費(km/L)は以下の計算で求めることができます。
(燃料の密度を0.90 g/cm3と仮定)
はい、計算結果が出ました。
大型外航船の燃費は0.0041 km/Lです!
計算ミスではありません。
もう一度言います。
大型外航船の燃費は0.0041 km/Lです!
分かりやすいように単位換算すると、4 m/Lです!
つまり、車で例えるとガソリンスタンドで満タン50L程給油した場合、200m先でエンストすることになります。
しかもこれはあくまでも設計段階の条件で計算した結果であり、
実際には先程も説明した通り船体の汚れや外的要因によって実際の燃費は悪化することになります。
船は札束をばら撒きながら走っていると揶揄されるようなこともありますが、まったくその通りだと思います。
以上が巨大外航船の燃費についての説明でした!
今回の内容を読んで、「船は大量の燃料を使っているから環境に悪い!」という勘違いだけはしてほしくないです。
たしかに船は航行するだけで沢山の燃料を消費することになりますが、その代わり積載することのできる貨物量も桁違いです。
そのため、一定量の貨物を運ぶときに消費する燃料という考え方で計算した場合には船はとても経済的で環境に優しい乗り物だということが分かります!
その話についてはまた別の機会に説明したいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!