南極大陸の冒険や冬の雪山を登山する場合には水の確保が大変だという話をどこかで聞いたことがあります。
周りには雪や氷が沢山あるのに液体の水を手に入れるのは難しいからです。
同じように、船の周りには沢山の海水がありますがそこから清水を手に入れるのには苦労が必要です。
今回は、海水から清水を造り出す造水器について説明していきたいと思います。
清水の役割
船では清水のことをFresh waterと呼んでいます。
陸上ではあまり清水という言葉自体使わないかもしれませんが、陸でいうところの水道水というイメージを持っていただければ大丈夫です。
清水は船内では生活用水、機械の冷却水、ボイラの缶水、飲料水などとして使われています。
生活用水
船内のシャワーや洗面所、トイレ、蛇口などから出る生活用水として清水が使用されています。
船によっては清水の消費量を抑えるために、トイレの水やシャワーの水に海水を使っているという場合もあります。
しかし現在、外航商船ではトイレの水やシャワーの水に海水を使うことはほとんどありません。
機械の冷却
主機(エンジン、タービン)、コンプレッサー、冷凍機、空調機器、…など様々な機器の冷却水としても清水は使用されています。
清水を冷却清水として使用する場合には、防錆剤を加えて配管が錆びにくくしたり、機器の腐食を防ぐためにpHを調整するなど冷却清水の性状管理も行っています。
また、別の記事でも説明しましたが、機器の冷却には清水ではなく海水を使用している場合もあります。
ボイラの缶水
清水はボイラの缶水(蒸気をつくるためにボイラの中に供給される水)としても使用されています。
ディーゼル船で使われているような低中圧ボイラの場合には清水に薬剤をいくつか加えることで缶水として使用していますが、
タービン船に使われているような高圧ボイラの缶水には清水(Fresh water)よりも不純物の少ない蒸留水(Distillated water)が缶水として使用されています。
これは、高圧ボイラの場合、缶水にわずかな不純物が含まれていたとしても機器の不具合を招く恐れがあるからです。
飲料水
清水を飲料水として利用する船もあります。
といっても、清水のままではミネラルなどの成分が含まれていないため飲料水として利用するのには不適です。
そこで、清水にミネラルなどの成分を自動注入する機械を用いて飲料水を精製します。
また、雑菌などが含まれている危険もあるため、紫外線などを用いて殺菌処理も行っています。
清水の補給方法
このように清水には沢山の用途があり、清水は船を運行する上で欠かせないものです。
清水を船に補給する方法としては主に2つの方法が考えられます。
それは、「港で積み込む」か「造水器で造る」かのどちらかです。
港で積み込む
小型、中型の船舶の場合には港で清水を積み込む場合が多いです。
陸側の設備と船とをホースで繋ぐことによって船内の清水タンクに清水を補給します。
この方法は大型外航船では基本的には使用されていません。
(ドック入渠時など造水器が使用できない場合は使用することもあります)
造水器で造る
外航船では造水器を用いて海水から清水が造られています。
海水から清水を造る方法には蒸留を行う蒸留式、半透膜を利用する逆浸透膜式などいくつか種類があるのですが、
多くの外航船では真空下での蒸留を用いて清水が造られています。
真空蒸留式造水器
造水器の原理
中学校の化学の授業などで蒸留について勉強した覚えのある人も多いと思いますが、
蒸留というのは「液体を加熱して気化させた後に再び冷却して液化させることで純度の高い液体を得る方法」のことです。
海水を沸騰させた場合NaClなどの溶解物は凝縮されて海水の中に残り、清水だけを取り出すことができるという訳です。
船で使用している蒸留式造水器ではこの過程を真空下で行っています。
何故真空なのか?
先程も説明しましたが、蒸留を行うためにはまず初めに海水を沸騰させる必要があります。
大気圧下で水を沸騰させるためには100℃以上まで加熱する必要があります。
水を100℃以上まで加熱させるためのエネルギー消費量は大きく、高い燃料費がかかってしまいます。
一方、真空下(-0.09MPa程度)では40℃程度の比較的低温で水が沸騰します。
富士山など高い山の山頂でカップヌードルをつくると沸騰した水が低温だから美味しくないという話や、圧力鍋で調理をすると高温になるので火の通りが早いといった話と同じ理屈です。
この場合、加熱源として主機(メインエンジン)の冷却水など(約85℃)を使用することで容易に蒸留を行うことができます。
実際の造水器
船舶用造水器として最も有名なものはササクラ社の造水器です。
(参考:株式会社ササクラ (sasakura.co.jp))
このキノコのような(?)形をした機械が造水器です。
内部が真空になっていて海水を蒸留し清水を造り出すことができます。
写真の中央部分にある丸い穴のような部分はガラスがつけられていて、内部で蒸発している海水の様子を確認することもできます。
理論で分かっていても、実際40℃程度で水が沸騰している様子を見ると不思議だなと感じます。
以上が船舶に搭載されている造水器についての説明でした。
清水は船を運行する上でも、船員が生活を送る上でも非常に大切なものです。
今回紹介した造水器以外にも色々な形の造水器が存在するので、また別の機会に紹介したいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!