外航海運船員の船乗り日記

外航船員が船上(ときどき陸上休暇)で送る波乱万丈(?)な日常生活です

進化を続ける船舶の主機!外航船に使われる主機の種類と最新エンジンの紹介

皆さんは外航船のエンジンを見たことがありますか?

外航船の船体は巨大なものでは長さが400m近くにもなり、中に搭載されているエンジンも非常に巨大なものになっています。

 

今回は外航船で使用されている主機について説明していきたいと思います。

 

 

外航船に使用されている主機の種類

船の推進力を生み出すために使用される機器の総称を「主機」と呼びます。

そして、船舶の主機にはいくつか種類があります。

 

例えば、小型ボートなどではガソリンエンジン、

小型内航船では4ストロークディーゼルエンジンなどが主機として使用されています。

 

一方、外航船などの大型船舶では「2ストロークエンジン」、「蒸気タービン」、「電気推進(モーター)」、「ガスタービン」が主機として主に使用されています。

 

2ストロークエンジン

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MAN Diesel & Turbo: 9S90ME-GI


現在大型船舶の主機として最も使用されているのが2ストロークエンジンです。

 

シリンダ内で圧縮して高温高圧となった空気に燃料を噴射して爆発を起こし、

その圧力でピストンを駆動して、クランクシャフトと呼ばれる部分でピストンの上下運動をプロペラ軸の回転運動へと変換させるという仕組みになっています。

 

以前は、シリンダ内に噴射される燃料は重油のみでした。

しかし現在は、Dual Fuel 2-Stroke Engineというものが開発され、重油の他にもLNGなどのガスを燃料として使用できる2ストロークエンジンが登場しています。

 

近年話題となっている水素やアンモニアなども2ストロークエンジンの燃料として使用されることが期待されています。

 

2ストロークエンジンは今回紹介する他の主機と比べても熱効率が高く、経済的な運航を進めることができることが外航商船の多くで採用されている理由となります。

 

蒸気タービン

蒸気タービンは主にLNG船で使用されている主機です。

 

ボイラーで水から蒸気を発生させ、その蒸気をタービンに送りタービンの回転運動を生み出し、減速機を通してプロペラ軸の回転運動に変換させるという仕組みになっています。

簡単にいうと、やかんで水を沸騰させ、発生した蒸気で風車を回しているというようなイメージを持っていただければ大丈夫です。

 

LNG船の多くで主機としてタービンが利用されている理由は、LNG船で発生するBOG(Boil Off Gas)をボイラーの燃料として利用することができるからです。

 

LNG(液化天然ガス)は大気圧下では-162℃という低温で気化してしまいます。

そのため、LNG船でどんなにタンク内の温度圧力管理を行っていたとしても少しずつLNGが気化してタンク内でガスが発生してしまいます。

このように自然発生したガスのことをBOG(Boil Off Gas)と呼びます。

 

BOGを放置しているとタンク内の圧力がどんどん上昇してしまうため、最終的にはタンクが破裂することを防ぐために大気放出する必要があります。

しかし、天然ガスはCO2以上の温暖化効果をもつガスとして知られていて、天然ガスを大気放出することは大気汚染に繋がってしまいます。

 

そこで、LNG船ではタンク圧力を調整するために積荷(商品)として運んでいるはずのLNGをボイラーの燃料としても使用しています。

そうすることで、LNGを大気放出することなくタンク内の圧力を安全な範囲に維持することができるのです。

(一部のLNG船には再液化装置と呼ばれる機械が装備されていて、BOGを再び冷却して液化させることで燃料として使用しなくてもタンク圧管理ができるようになっている船も存在します。)

 

先程も説明しましたが、以前は2ストロークエンジンの燃料としては重油しか使用することができませんでした

よって、LNG船の主機としては蒸気タービンが採用されてきました。(ボイラーでは昔からLNGを燃料として使用する技術があった)

 

しかし、現在ではDual Fuel Engineの登場により、LNG船の主機としてタービンではなくエンジンを搭載している船も登場しています。

 

蒸気タービンは他の主機と比べて熱効率が低く、現在新造されている船ではタービン船の需要が少なくなっているのが現状です。

 

電気推進:モーター

発電機で電力を造り出し、その電力を用いて大型のモーターを回すことでプロペラ軸を回転させる仕組みの船を電気推進船と呼びます。

 

電気モーターはエンジンと比べて容易に回転数を制御することができ、熱応力等の心配が少ないため回転数の増減を短時間で行うことができるという利点があります。

また、大型エンジンと比べて振動や騒音が少ないため、大型客船には電気推進が用いられている場合が多いです。

 

また、プロペラを二つ持つ二軸船では、片方の主機に電気推進(モーター)、もう片方の主機には蒸気タービンを用いているなどというケースも存在します。

 

電気推進は扱いやすいというメリットがある一方で、エネルギー効率があまり高くないというデメリットも存在します。

 

そもそも、エネルギーは変換するたびに必ずロスが発生してしまいます。

 

2ストロークエンジンの場合、エンジンの生み出した運動エネルギーを直接プロペラの回転運動に利用しています。

一方、電気推進は一度電気エネルギーに変換してからモーターでプロペラの運動エネルギーに戻すというステップを挟んでます。

 

そのため、エネルギー効率が多少低下してしまうのは必然だと言えます。

 

ガスタービン

ガスタービンは飛行機のエンジンとしても使用されています。

 

圧縮して高温高圧となった空気に燃料を噴射することで爆発させ、爆発圧力をタービンに送ることでタービンを回転させ、減速機を介してプロペラ軸の回転へと変換するという仕組みになっています。

 

ガスタービンは小型で高出力というのが最大のメリットです。

船舶に利用されているガスタービンは丸ごと取り外して換装することができ、船内で大規模なメンテナンスを行う必要がありません。

 

ガスタービンは燃費が良くないため商船では使われていませんが、短時間で船を最高速度まで上昇させることができるため、俊敏性の求められる軍艦や護衛艦などの主機として採用されています。

 

 

 


以上が外航船の主機についての説明でした。

 

現在外航商船の主機としては2ストロークエンジンが主流であり、蒸気タービンは減少傾向にあります。

次世代燃料として注目を浴びている水素、アンモニアがどのような形で利用されるかはまだ分かりませんが、これからも2ストロークエンジンが大型船舶の主機として活躍することになると思います。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!