外航海運船員の船乗り日記

外航船員が船上(ときどき陸上休暇)で送る波乱万丈(?)な日常生活です

外国人船員向けMarCoPay(マルコペイ)は何が凄い?日本郵船の電子通貨

MarCo Pay

日本郵船がアクセンチュア、Citigroup等と提携し、外国人船員向けにMarCo Payと呼ばれる電子通貨を開発したことをご存知でしょうか?

 

今回は、MarCo Payについて説明していきたいと思います。

 

 

従来の外国人船員給与支払い方法

船内におけるお金の動き

電子通貨MarCo Payについて説明するためには、船内でのお金の動きについて説明しておく必要があります。

 

世界中の港に行く可能性のある外航船では、船内通貨にUS$が使われています

といっても、日本人外航船員の場合は乗船中の給料は銀行口座に日本円で振り込まれるため、そこまで意識することはありません。

(上陸時のお金として使うため、入港時の船食(個人注文)などの費用を払うため、給料の一部を船上で受け取ることもできます)

 

一方、外国人船員の給料は基本的にPOB(Pay On Board)といって船上で船長から直接支払われます

 

Pay On Board(POB)

外国人船員は毎月POBで船長から給料を直接受け取ることになります。

 

外国人船員の場合、長い人では乗船期間が一年近くの長期乗船になることもあるため、船上で貯まった現金は凄い量になります。

 

POBで直接お金を受け取ることができると毎月の頑張りが目に見えて現れるため良い効果があります。

しかし、POBにはそれ以上に沢山の問題点があります。

 

POBの問題点

現金管理負担(盗難リスク)

POBの問題点の一つは外国人船員の現金管理負担です。

先程も説明しましたが、長期間乗船する外国人船員の保有する現金の量は凄まじい額になります。

 

下船時には沢山の現金を抱えて帰国することになるのですが、

治安の悪い地域では帰国時の船員を狙った強盗が発生しています。

 

そもそも外航船員の給料は彼らの国の平均給与額と比べて遥かに高く、船員がお金を沢山持っているというのは周知の事実となっています。

 

そのため、強盗からも狙われやすいという訳です。

 

強盗にお金を取られるリスクを避けるために船上から銀行に入金することもできますが、その場合は手数料を取られることになり、大きな負担となってしまいます。

 

国際送金コスト

また、POBで多額の現金を受け取る場合には国際送金コストの問題も生じます。

 

当然、乗船中でも船員は家族を養う必要があり、陸で暮らしている家族に突然お金が必要になるケースもあります。

その場合は船と陸側の会社とやり取りをすることで給料を家族の口座に国際送金することもできるのですが、送金にかかるコストは大きな負担となります。

 

船長の現金管理

給料を受け取る船員側だけではなく、給料を渡す船長側にも現金管理負担の問題が発生します。

 

毎月、全外国人乗組員にPOBを支払うため、船には多額の現金を置いてあります

そして現金の管理は船長が行う必要があります。

 

お金に関わる話なので非常に気を遣う必要があるのは言うまでもありません。

また、入港時には船内の現金を蓄えるために陸側から現金の手配などをお願いする必要もあります。

 

 

このようにPOBには沢山の問題点がありました。

これを解決するために開発されたのがMarCo Payです。

 

MarCo Payとは

MarCo Payの概要

MarCo Payとは”Maritime Community Pay”の略称のことであり、

主に外国人船員を対象とした電子通貨プラットフォームです。

 

MarCo Payでは、スマホアプリでQRコードを使って電子決済、国際送金、再現金化をすることができます。

そして、MarCo Payが導入されると船員はMarCoPayを通じて、船上で給与を電子通貨で受け取るようになります。

 

MarCo Payの利点

現在色々な電子通貨が登場していますが、他の電子通貨と比べてMarCo Payが異なる点は「再現金化」ができるという点です。

 

船員はMarCo Payを利用して陸にいる家族のアプリに送金することができ、

陸で暮らす家族はATMを利用して現金化することができます。

 

現金を国際送金する場合と比べて、アプリでの家族送金のコストは小さく、送金処理も迅速に行われます。

 

また、家族に送金する必要がない人でも多額の現金を抱えて下船する必要がないため、強盗にお金を取られる心配がありません。

 

さらに、船内での給与支払いは電子通貨で行われるため、船長が多額の現金を管理する必要もなくなり、船内の現金管理負担も軽減されます。

 

MarCo Payの今後の展望

先程も少し説明しましたが、外国人外航船員は彼らの国の平均給与額と比べて遥かに高いお金を貰って仕事をしています。

 

しかし、実は外国人船員の多くは乗船毎の短期契約という雇用体制が取られています。

 

そのため、定職についているとは見なされない場合があり、

高所得であるにも関わらず社会的な信用が低く、銀行からの融資やローンなどの契約することができない場合があります。

 

MarCo Payは、将来的にそういった外国人船員の社会的なステータスを向上させ、船員が銀行からの融資などを受けることのできる環境を創ることを目指しています。

 

現在は日本郵船系列の一部の船でのみMarCo Payが運用されていますが、

将来的には他社にもネットワークが広がり、世界中の船員とその家族の生活を支えるグローバルなプラットフォームへと進化することになるかもしれません。

 

 

 


以上がMarCo Payについての説明でした。

 

日本人外航船員にとってはそこまで直接的な関係のある話ではないのですが、外国人船員にとっては画期的な非常に良いサービスだと思います。

今後の成長に期待していきたいです。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!