海運業界では昔から「noon report」と呼ばれる報告書が用いられています。
一般の方には馴染みのない言葉かもしれませんが、今回はこのnoon reportについて説明していきたいと思います。
noonレポートとは
noon reportとは、その名の通り正午(お昼の12時)に作成する報告書のことです。
船で作成するnoon reportでは「noon to noon」といい、前日の正午から当日の正午までの間に使用された燃料消費量、船速、船位、風速、プロペラの回転数、…など様々なデータを記録します。
このデータを用いることで船の運航状態の評価、次の港までの燃料消費量の概算など、様々な計算や予測を行うことができます。
一日の始まり、終わりを正午にしている理由
ここまでで説明した通り、noon reportでは正午を一日の区切りとしています。
普通の感覚だと「一日の区切りは夜の12時ではないのか?」と疑問に思う人も多いと思います。
当然、noon reportでは正午を一日の区切りとしているのにはしっかりとした理由があります。その理由は以下の通りです。(正式な文献を参照にしているわけではないので、あくまでも個人的な意見として理解してください)
- 正午なら時計のない時代でも分かる
- 太陽の位置を用いて船の位置を決めることができる
それぞれの理由について解説していきます。
正午なら時計のない時代でも分かる
そもそも正午の定義とはなんでしょうか。
正午(しょうご)とは、地方時において、天球上を一定の速さで動くと考えた平均太陽が地平線より上で子午線を通過(正中:南中または北中)する時刻をいう。
(引用:正午 - Wikipedia)
引用文を読むと何か難しいもののように感じてしまいますが、要するに「太陽が真南に来て一番高い位置上がったとき(北半球の場合)」が正午の定義です。
これなら太平洋の真ん中でも、どんな場所に船がいても正午を知ることができます。
一方で、夜の12時(正子)はどうでしょうか?
これはただ単に時刻が夜中の12時だということになります。
つまり、正子を正確に理解するためには時計が必要不可欠なものになります。
現代は様々な技術が発展して、時刻が分かるというのが当たり前の世界になっていますが、まだ船ができたばかりの頃、海賊達の大航海時代(?)には船に気軽に設置できる時計などはなかったはずです。
よって、昔の人達が時刻を知るための手段は太陽の位置を利用するしかなく、一日の区切りは正午にするのが一番合理的だったのです。
そもそも歴史上、船乗りの航海術と天文学というのは非常に関係性の強いものです。
そして、その天文学では長年、正午を一日の始まりとする「天文時」が使用されてきました。
(古代ローマの学者クラウディオス・プトレマイオスが天文学を唱えた西暦100年頃から1925年1月1日に天文時が廃止され常用時に統合されるまで、天文学では天文時が使用されてきました。)
以上のことからも正午を一日の区切りとするのは妥当だと理解できると思います。
太陽の位置を用いて船の位置を決めることができる
そして、太陽を見ることでただ時刻が分かるというだけではなく、船の座標を知ることもできます。
これは天測航法と呼ばれ、特に正午の太陽の高度角を利用して船位を割り出す方法を正午天測法と呼びます。
現在はGPSの進化によって天測航法を使用しなくても船舶の正確な位置を知ることができるようになりましたが、現代でもGPSが正常に作動しているかどうかを確認するために天測航法を実施しています。
(すいません、私は機関士なので具体的な天測航法についてはあまり詳しくないです…。)
つまり、時計のない時代であっても「いつが正午なのか」、「正午の船の位置」というのは計算で求めることができたのです。
そのため船の世界では一日の区切りを正午とし、noon reportを作成しました。
もちろん、現在は時計などの技術も進化しているため、一日の区切りを正子に変更することもできます。
しかし、昔からのなごりであったり、深夜にreportをすぐに作成するというのは労働条件から考えても非合理的なため、現在でもnoon reportが使用されているのではないかと推察されます。
以上が海運業界で使用されているnoon reportについての説明でした。
ここまで読んでいただきありがとうございました!