外航海運船員の船乗り日記

外航船員が船上(ときどき陸上休暇)で送る波乱万丈(?)な日常生活です

船乗り用語:Port,Starboardとは? 上級階級 "posh"の語源は船⁉

f:id:Cfarer:20210401083907p:plain

皆さんはアニメか映画か何かで「面舵いっぱい!」と指示を出しているシーンを見たことがありますか?

今回は、外航船における操船の指示とそこから派生した"posh"について説明していきたいと思います。

 

 

船乗り用語"Port", "Starboard"

Port, Starboardの意味

冒頭でも軽く触れましたが、「面舵いっぱい」などの指示は操舵号令と呼ばれ、船舶の舵(かじ)を切るときに出す指令のことを指します。

面舵は舵を右に切ること、逆に取舵は舵を左に切ることを意味します。

 

現在でも海上自衛隊ではこのよう日本式の操舵号令が使われているという噂を聞いたことはありますが、一般の船舶では使われていません。

 

一般船舶の場合は"Port", "Starboard"という指示を出します。

"Port"は左舷側(取舵)、"Starboard"は右舷側(面舵)を意味します。

 

実際の使われ方

実際の船舶では、

「左舷側に10°舵を切りたい」場合には、"Port 10"

「右舷側いっぱいまで舵を切りたい(面舵いっぱい)」場合には、"Hard a-starboard"

「舵を中央(ニュートラルな状態)に戻したい」場合には、"Midship"

などと指示を出します。

 

Port, Starboardの語源

普通の人が"Port"という単語を聞いたら、その意味は「港」だと思うと思います。

実は船乗り用語の「左舷側を意味するport」は「港を意味するport」から派生したものなので、その認識は間違っていません。

 

何故左舷側が港なのかを説明するためには、先にstarboardについて説明する必要があります。

starboardとは元々はsteering board(操舵板)が訛ったものです。

バイキング船で代表されるような大昔の船では操舵板が右舷後方に設置されていました。

操舵版を右側後方に設置した理由は、右利きの人間の方が多く、右側に操舵板を設置した方が扱いやすいからというのが定説です。

f:id:Cfarer:20210401091255j:plain

(引用:Viking Ship Museum, Oslo, Norway-The Incredibly Long Journey

このため、右舷側はstarboardと表現されるようになりました。

 

また、右舷側を接岸すると右舷後方にある操舵板が岸にぶつかり破損してしまう可能性があります。

そして、左舷側を港に接岸するのが常識となり、左舷をportと表現するようになりました。

 

現在の船舶は多くの場合左舷でも右舷のどちら側でも接岸できるようになっています。

 

しかし、自動車専用船(PCC)は基本的には右舷付しかできません。

というのも、自動車専用船にはランプウェイと呼ばれる自動車の積み下ろしを行うためのスロープが右舷側に搭載されているからです。

左舷側を接岸すると自動車の積み下ろしができなくなってしまいます。

自動車専用船

(引用:自動車専用船荷役作業 | 株式会社宇徳

 

上級階級"posh"とは

poshの意味

皆さんはposhという英単語を知っていますか?

Weblio英和辞典によるとposhの主な意味は「 ぜいたくな、豪華な、スマートな(つもりの)、ハイカラを気取った、上流社会的な」です。

単純に褒める言葉ではなく、少し皮肉の入った表現になっています。

 

poshの語源

実はこのposhという言葉の語源は先ほど説明した船乗り用語のportとstarboardから来ています。

 

そもそもposhという単語は"Port Out, Starboard Home"の頭文字を取っています。

これは「出発するときはport側で、帰ってくるときはstarboard側」という意味なのですが、この言葉が生まれた背景にはイギリスと当時イギリス領であったインド間を航行していた豪華客船が存在します。

 

イギリスとインド間を航行する際には、先日話題にもなったスエズ運河を使用し紅海を通るのが最短ルートです。

 

紅海は英語ではRed Seaと呼ばれ、この海域は非常に暑くなります。

また、紅海は南北に伸びているためここを航行する船は西日の影響を強く受けます。

 

そのため、イギリスからインド方面に向かうときは西日の避けることができるport側、逆にインドからイギリスに帰るときには西日の避けることができるstarboard側が人気となりました。

通常は船内の客室は固定だと思うのですが、富裕層向けに"Port Out, Starboard Home"のチケットが販売され、これを買うことのできる人が"posh"ということになったのです。

 

 

 


以上が船乗り用語portとstarboardについての説明でした。

 

逆に"Starboard Out, Port Home"のsophという英単語がないかと思い調べてみたら、

「soph=sophomore: (4 年制大学・高校の) 2 年生 (4 年制大学・高校の) 2 年生」と出てきました。

2年生は上級生から奢ってもらえなくなり、逆に下級生に奢らないといけないから貧乏ということですね?(違います)

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!