外航海運船員の船乗り日記

外航船員が船上(ときどき陸上休暇)で送る波乱万丈(?)な日常生活です

世界三大運河の一つ!『スエズ運河』とは一体何か?外航船員が語るその実態とは

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皆さんは世界三大運河を知っていますか?

世界三大運河とはスエズ運河、パナマ運河、キール運河のことを指します。

 

今回はその中の一つ、地中海と紅海を繋ぐスエズ運河について説明していきたいと思います。

 

 

スエズ運河とは一体何か

スエズ運河

(引用:Wikimedia Commons

スエズ運河はエジプトにある19世紀に造られた地中海と紅海を繋ぐ人工運河です。

全長は 200km近くあります。

 

それまではアジアからヨーロッパに行くためにはアフリカ大陸をぐるっと迂回する必要がありましたが、スエズ運河ができたことでその必要がなくなり、距離にして6000~7000kmも短縮することができるようになりました。

 

スエズ運河は一部区域では片側交互通行のような形を取っていて、航行するためのルールが多数存在します。

好き勝手に航行することができる訳ではないので、スエズ運河の沖では多くの船が停泊し順番待ちをしています。

 

スエズ運河の通行料

スエズ運河の通行料は船の大きさによって変化し、また通行料の引き上げや引き下げも頻繁に行われているため、一概に決めつけることはできません。

しかし、世界最大級のコンテナ船の場合、スエズ運河の通行料だけで1億円弱の費用がかかることもあります。

 

「一億円もかかるなら誰も使わないのではないか」と思う人もいるかもしれませんが、スエズ運河を使わずにアフリカ大陸を迂回する場合には、スエズ運河を使用する場合と比較して目的地に到着するまで一週間余計に時間がかかることになります。

 

さらに、その際の燃料代だけで通行料に匹敵する費用がかかってしまいます。

(通常はスエズ運河を使用した方がお得ですが、2020年には燃料の原油代が大幅に低下したことでスエズ運河を使用しない方が利益が大きくなり、スエズ運河を使用する船舶が減少するという出来事もありました。)

 

実際のスエズ運河

スエス運河の両岸は砂漠

ここまで予備知識を色々と説明させていただいたのですが、やはりスエズ運河の最大の魅力はその異世界感(?)です!

スエズ運河

スエズ運河では両側が砂漠という珍しい経験をすることができます。

砂漠の中を大型船で航行するという経験ができるのはここだけなのではないでしょうか?

 

砂漠の上を走る船

また、スエズ運河では砂漠の上を走る船を目撃することができます。

実際の写真がこちらです。

スエズ運河

間違いなく、大型船が砂漠の上を走っていますね(?)

 

実はスエズ運河は一部の区間では二車線のような形になっていて、それぞれが一方通行の道になっています。

そのため、砂漠の奥にある反対車線(運河)を走っている船が、まるで砂漠の上を走ってるかのように見えます。


新スエズ運河

実はスエズ運河は2015年に拡張工事が行われ新スエズ運河に生まれ変わりました。

拡張工事前後の様子は以下の通りです。

新スエズ運河

(引用:Wikimedia Commons

 先ほど説明した、二車線区間についても航空写真からはっきりと確認できると思います。

 

この新スエズ運河開通に関連して次のようなモニュメントがスエズ運河には設置されています。

ネット上で検索しても同じ画像を見つけることはできなかったのでとても貴重な写真かもしれません。(検索能力が低いだけかもしれませんが…)

スエズ運河

 拡大していただくと、右側の記念碑には2015年8月6日、1956年7月26日と記載されていることが分かります。

2015年8月6日は新スエズ運河が開通した日。

1956年7月26日はスエズ運河が国営化された日のことです。

 

また、左側の看板(?)には1869年と記載されています。

これは旧スエズ運河が開通した年です。

 

こうして見てみると歴史の流れを感じます。

 

スエズ運河橋(エジプト-日本友好橋)

スエズ運河橋はスエズ運河にかかる大きな橋で日本政府の支援で建設されました。

鹿島建設、日本鋼管、新日本製鐵(現在の日本製鉄)が力を合わせることで作り上げたようです。

スエズ運河橋

ピンぼけしていて申し訳ないのですが、スエズ運河橋には日本とエジプトの国旗がそれぞれ設置してあります。

日本から遠く離れた地でも頑張っている人がいるのだなと実感させられます。

ボートマンの乗船

スエズ運河ではボートマンと呼ばれる人々が乗船してきます。

ボートマンの役割は、緊急時に船の係船索を陸側まで運び船を係船する手助けをすることです。

ですが、通常時は特にやることがありません。

 

そこで、ボートマンは船内で勝手に露店を始めます。

エジプトのお土産屋さんで売ってそうな様々な商品を販売しています。

ボートマンは船員がお金を沢山持っていることを知っているので、ぼったくり料金です。

どこまで値切ることができるかは腕の見せ所です。(私は値切るのが下手くそなので参考にはなりません。)

 

パイロット(水先人)の乗船

スエズ運河ではパイロット(水先人)と呼ばれる人々が乗船してきます。

パイロットとは、ある区域を専門に船を運行するスペシャリストです。

スエズ運河だけではなく、東京湾や各港など世界中にパイロットは存在します。

 

パイロット乗船中は船長の代わりにパイロットが操船の指示(助言)を出します。

しかし、万が一パイロットのオーダーに従って事故が起きたとしても、船長の責任を問われます。

そのため、パイロットの発言はあくまでも助言であり、最終的には船長が判断しなければなりません。

 

スエズ運河での座礁事故

スエズ運河に関する記事を作成していたのですが、昨日(2021/03/24)スエズ運河で座礁事故が発生しました。  

suez canal

(引用:(c) Maxar Technologies via AP 

この船は全長400m近くの大型コンテナ船です。

この記事でも説明した通り、スエズ運河はアジアとヨーロッパを繋ぐ重要な運河であり、この事故の影響は計り知れません。

 

事故発生直後には事故の原因はブラックアウトという報道もありましたが、強風、砂嵐による影響という情報が有力です(記事最後部の追記参照)。

 

ブラックアウトとは、船内の発電機系統に異常が起き、船内電源を喪失することです。

ブラックアウトが起きたときのために非常用発電機なども設置されていますが、すぐに発電機を復旧することができなかった場合には船は制御不能になります。

今回のように運河を通行する際や港で入出港する際には何としてでも避けなければいけない事態です。

 

(2021/03/25 13:30追記)

以下の記事によると今回の事故はブラックアウトではなく、強風、砂嵐による影響と記載されています。今後も情報が更新されていくかもしれませんのでご注意ください。

 

(2021/03/30 08:00追記)

以下の記事によると現地時間で3/29の15時頃に無事スエズ運河の通航が再開したようです。事故の詳細や補償に関する事項は今後明らかになると思います。


 

以上がスエズ運河についての説明でした。

スエズ運河のコンテナ船「エバーギブン」座礁事故を受けて、スエズ運河関連の情報が一気に発信されています。

スエズ運河について正しい理解を手助けできるような記事になっていれば幸いです。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!