普段は外航船と一括りで呼んでいますが、外航船員が乗る船には沢山の種類があります。
今回は、外航船員が乗る船にはどんな種類があるのかについて説明していきたいと思います。
外航船の船種紹介
海運業界では、船の種類のことを船種(ふなだね)と呼びます。
車だと車種(しゃしゅ)と呼ぶので船種(せんしゅ)と呼んでしまいたくなるところですが、業界用語では船種(ふなだね)が正解です。
それでは、それぞれの船種について特徴を説明していきます。
油槽船:Tanker
(引用:タンカー | 日本郵船株式会社 )
原油や石油を運ぶ船のことを一般的にタンカーと呼びます。
正確にはタンカーとは液状貨物を運ぶ船の総称であり、
原油や石油などを運ぶ船はOil Tanker、
メタノールなどの液状石油精製品を運ぶ船はProductTanker、
酸などの液状化学製品を運ぶ船はChemical Tankerと呼ばれます。
Tankerに乗るためには甲種危険物取扱責任者という資格を取る必要があります。
(まったく同じ名前でガソリンスタンドや石油プラントなどで働くのに必要な資格がありますが、甲種危険物取扱責任者(陸上)と甲種危険物取扱責任者(海上)は全く別の資格です!)
また、タンカーではCrew Matrixという制度があり、タンカー経験の浅いSenior Officer同士(船長と一等航海士、機関長と一等機関士)では船に乗れないようになっています。
そのため、タンカーに乗る人はずっとタンカー一筋というようなSpecialistが多いです。
タンカーは中東に行く航路が多く、非常に暑い海域となるので過酷な労働環境となります。
さらに、他の船種と比べたとき、上陸する機会が少ないという特徴もあります。
ドライバルク船:Bulk Carrier
(引用:ドライバルク船 | 商船三井 )
鉄鉱石、石炭、木材チップ等を運ぶ船のことをばら積み船またはドライバルク船と呼びます。
英語で書くとBulk Carrierであり、実際にはバルカーと呼ぶことが多いです。
バルカーは積荷を降ろす前後で喫水(ドラフト)が大きく変化します。
そのため、LADEN航海(積荷を満載している状態)とBALLAST航海(積荷を降ろした状態)のドラフト差に注意する必要があります。
また、バルカーは他の船種と比較して荷役に時間がかかることも特徴の一つです。
荷役では、陸側のクレーンを使ってゲームセンターのUFOキャッチャーのような形で積荷を降ろしていきます。
雨などの影響で荷役が中断されることもあるため、長い時には1週間近く接岸しているときもあります。
そのため、上陸するチャンスは多いです。
航路としては南米やオーストラリアに行くことが多いです。
コンテナ船:CONTAINER SHIP
(引用:コンテナ船 | 事業紹介 | 川崎汽船株式会社 )
名前の通り、コンテナを積載して運ぶ船がコンテナ船です。
コンテナ船は全長400m近くの船もあり、他の船種と比較しても巨大です。
また、当然船内の主機(エンジン)も巨大で高出力のものが搭載されています。
船の世界のスケール感の大きさを一番実感できるのはコンテナ船かもしれません。
コンテナ船は世界中色々な所へ行く可能性がありますが、
基本的には定期航路(トラックのルート配送のようなイメージ)と呼ばれる形を取っていることが多く、乗る船によってどの航路を通るかは決まっています。
コンテナターミナルの高効率化によって荷役時間が短くなり、昔と比べると接岸している時間は短くなってしまいましたが、十分上陸する機会はあります。
入港する場所も都市部の近辺であることが多く、楽しく上陸することができます。
自動車船:PCC(PURE CAR CARRIER)
名前の通り、自動車を運ぶ船を自動車船、自動車運搬船などと呼びます。
通常はPCCと呼ぶことが多いです。
PCCは船体が特徴的な形をしていて、初めて間近で見たときには大きな壁が動いているような印象を受けました。
その特徴から、他の船種と比較して風の影響を受けやすい船になっています。
PCCの船内は立体駐車場のような形になっていて、そこに沢山の自動車が積み込まれています。
自動車の積み込みは主にギャングと呼ばれる陸側の作業員が行います。
その荷役スピードはとても速く、入港したと思ったらすぐに出港ということもあります。
PCCは基本的に世界中色々な港へ行く可能性があります。
また、PCCの入港する場所は都市部の近辺であることが多く、上手くチャンスが掴めれば華やかな上陸を楽しむことができます。
LNG船:LNG CARRIER
(引用:LNG船 | 商船三井)
液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)運ぶ船をLNG船と呼びます。
似たような船でプロパンなどの液化石油ガスを運ぶLPG船(Liquefied Petroleum Gas)もあります。
天然ガスは都市ガスや火力発電所の燃料などとして使われ、エコフレンドリーな化石燃料として注目されています。
別の記事でも紹介しましたが、現在CO2ゼロエミッションの流れが生まれている中で天然ガスの存在は欠かせないものになると思います。
LNG船に乗る場合もタンカーの場合と同様に、甲種危険物取扱責任者の資格を取得する必要があります。
他の船種では屋外でBBQパーティーをすることがよくあるのですが、タンカーやLNG船のような危険物船では当然屋外で火を取り扱うことができないため、BBQを楽しむことができません。
他の船種では船員は20人程度である場合が多いのですが、LNG船は人が多く30人程度乗船しています。
基本的には中東、ロシア、オーストラリア、北米、日本辺りが航路となります。
客船:Cruise Ship
説明不要かと思いますが、乗客を乗せてクルーズを行う船を客船、クルーズ船と呼びます。
日本人船員の乗る外航客船の数は外航商船と比べて限られているので中々乗る機会は少ないかもしれませんが、ゼロではありません。
客船では常に乗客の視線があるため、身だしなみを整える必要があります。
商船の場合は船内の人の数は20~30人程ですが、客船の場合には乗客も含めれば数千人という規模になります。
また、客船で働く場合には通常商船では必要のない豆知識などを習得しておくことが大切です。
例えば商船で働く上で、航海士が星座について命名された背景などの詳しい知識持つ必要はありません。
しかし、客船でお客さんに星座について質問されたときに「分かりません」と答えてしまうとどちらも残念な気持ちになります。
お客さんからの純粋な質問ほど恐いものはないかもしれません。
その他
最近では、船を特定の場所に浮かべて活用するFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)や発電船など様々な種類の船が登場しています。
現在、これらの船に日本人船員が配乗されているという話は聞いたことがないですが、将来的にはこういった船でも日本人船員が働くようになるかもしれません。
以上が、外航船員が乗る船の種類についての説明でした。
世界には他にも様々な種類の船が存在しますが、今回はあくまでも日本人外航船員が乗る可能性のある船に絞って紹介しました。
大手海運3社などで働く場合には、これらの中から色々な種類の船に乗る可能性がありますが、実際自分がどの船に配乗されるかはそのときの運次第です。
また、文中では上陸などについても触れましたが、現在はコロナの影響でどの船に乗っても上陸することができません。
ここまで読んでいただきありがとうございました!