外航船内では船員が365日生活を送っています。
そのため、トイレや食事の残飯、生活排水などが発生することになります。
今回は、船内の汚水処理について説明していきたいと思います。
船内で排出される汚水
Sewage, Soil
船内のトイレから排出される下水のことをSewage、Soilなどと呼びます。
Sewageは当然汚いものであり、基本的には排出する前に下水処理を行ってから排出することが国際条約で決められています。
下水処理を行うための装置はSewage treatment plantなどと呼ばれています。
また、船内の病室(Hospital)からの排水もこのカテゴリーに含まれます。
病室からの排水には細菌などが含まれている可能性があるため、しっかりと後処理を行ってから排出する必要があるからです。
Gray water
洗面所やシャワー、台所からの生活排水などはGray waterという分類に入ります。
Gray waterという名前の通り、少し汚れた水という感じのイメージです。
Gray waterの排出は国際条約で規制されている訳ではないため、基本的にそのまま船外排出(Overboard)されています。
しかし、港によってはGray waterの排出も制限されている場合があるため、必要に応じて排出ラインを切り替えることができ、sewage treatment plantで後処理したり、一時的にタンクで貯蔵しておくこともできます。
下水処理
国際条約
ここまでで説明したようにSewageの排出前の処理についてはMARPOL条約という国際条約で規定されています。(参考:Annex IV - Index)
簡単に要約すると、
総トン数400トン以上(もしくは総トン数400トン以下でも定員が15名以上)の国際船は、
政府の承認を得た汚水処理装置(sewage treatment plant)、汚水粉砕消毒装置(sewage comminuter)、汚水貯蔵タンク(sewage holding tank)
のいずれかを搭載する義務があります。
また、装置の搭載義務以外に排出の制限なども定められており、
上記の処理装置で後処理されたsewageは陸から3マイル以上離れていれば船外排出が可能。
また、後処理されていないsewageも陸から12マイル以上離れていれば船外排出が可能となります。
つまり、入港中の外航船など、通常陸から見ることができる状態の外航船からsewageの船外排出は行われていないので安心してください笑
処理方法
ここまで、Sewage treatment systemでsewageを処理すると簡単に説明してきましたが、どのようにしてsewageが処理されているのかについて具体的に説明します。
現在、外航船で用いられている汚水処理装置の多くは微生物の有機物分解作用を利用したものとなっています。
Sewage treatment plant内は基本的に3つ程の区画に分かれています。
最初の区画はAeration tankなどと呼ばれ、微生物が住んでいる場所となります。
ここでsewageに含まれる有機物(固形分)が分解されます。
微生物が生きるためには酸素が必要なため、常時空気を供給する必要があり、このことからAeration tank(爆気室)と呼ばれている訳です。
次の区間はClarification tankなどと呼ばれ、分解された汚水と未分解の有機物を沈殿分離させることで、分解後の処理水のみが次の区画に流れるようにしています。
最終的に微生物によって分解された処理水はChlorination tankなどと呼ばれる滅菌室に入り、塩素によって殺菌処理を行われたのちに船外排出(または貯蔵タンクなどで一時貯蔵)されることとなります。
船内のトイレを使うときの注意点
ここまでで説明したように、基本的に船内トイレの排水はsewage treatment plantに流れることになります。
このとき注意しなければならないのが、トイレ掃除などで市販のトイレ洗浄剤等を用いないことです!
トイレ洗浄剤を用いるとsewage treatment plant内の微生物が死んでしまい、sewageを分解することができなくなってしまうからです。
万が一微生物が死滅してしまった場合には、微生物の入ったタブレットを投入し、また1から育て上げる必要があります。
以上が、船内の汚水処理についての説明でした。
今回の内容はMARPOL条約で定められている外航船に限った話であり、
内航船やその他小型船舶などの場合にはまた異なる対応が行われていることと思います。
また、客船の場合も商船とは異なる部分があるかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございました!