皆さんは外航船のネット環境がどういったものになっているかを知っていますか?
現代のネット社会においてネット環境の大切さは計り知れません。
今回は、船の上のインターネット環境について説明していきたいと思います。
従来の船上通信
昔は当然船上にインターネット環境は存在せず、陸にいる家族と連絡を取るためには衛星電話のみが存在していました。
人から聞いた話なので正確な情報は分かりませんが、衛生電話は1時間通話すると5万円程度のお金がかかっていたそうです。
それでも恋人に連絡を取るために毎月何十万というお金を払って通話をしていた船員もいたようです。
結婚してしまうと逆にそこまでのコストをかけて電話をすると怒られてしまうので、「船から電話が来る=何か事故があった」という悪いイメージの方が強くなります。
現在の船内インターネット環境
衛星通信を利用
現在、外航船には衛星通信を利用したネット環境が備え付けられています。
通信衛星には大きく分けて、赤道上空を地球自転と同じ早さで周回する静止衛星、
極軌道を周回する周回衛星の2種類が存在します。
海上で使用されている通信設備のほとんどが「インマルサット」又は「VSAT」と呼ばれるもので、どちらも静止衛星を用いています。
今回はこの中でも多くの外航船に採用されているインマルサットについて説明していきます。
インマルサット
インマルサット概要
インマルサット(INMARSAT:International Maritime Satellite Organization)は、1979年に設立された国際海事衛星機構の事業を引き継いだ民間企業およびそのサービス商標のことです。
サービス提携をすることでインマルサット社の静止衛星を通じて、船上でも電話やインターネット環境を利用することができるようになります。
写真の中で半球状(?)の形をしたものがインマルサットの設備です。
使用可能エリア
インマルサットの使用可能エリアは下図のように、北極海を除くほぼ全域を占めています。
近年では北極海航路の需要が高まってきていることを受けて、先ほど説明した周回衛星を補完的に用いることで通信エリアをカバーするということも考えられているそうです。
通信速度
インマルサットには低速ではあるが天候の影響を受けにくい回線、高速であるが天候や海域の影響を受けやすい回線などがあり、一概に通信速度を定義することはできないのですが、現在最大10Mbpsの高速・大容量通信を利用できるサービスも存在します。
また、上記の二回線を状況に応じて切り替えることでどんな状況でも安定した通信環境が得られるようになっています。(携帯電話の4G、3G回線と同じイメージです)
そのため船内でもyoutubeで動画を見ることが可能ですし、LINE等を使って家族と連絡を取ることもできます。
外国人クルーはテレビ通話が好きなのか、よくテレビ通話をしている姿を見かけます。
しかし、船内の人全員が沢山データ通信を行ってしまうと回線がパンクして通信速度が遅くなってしまいます。
そのため、一日で使用できる一人当たりのデータ量を制限している場合が多いです。
回線を利用している人の少ない深夜帯などはサクサクとネットを楽しむことができます。
船内通信環境の格差
上記のような設備を備えた船舶が存在する一方で、古い通信環境を備えた船舶もあり、ネット環境格差が広がっています。(参考:船陸間通信、海の情報格差 拡大。船員の生活左右。「高速ネット」VS「Eメール限定」|日本海事新聞 電子版 )
インマルサットの性能は進化しているものの、コスト面の問題から最新の通信設備を導入していない船舶も多く存在するからです。
「昔は外航船員は電話もろくにできないような環境で、ネット環境が整備されていないなどと言うのは甘えだ」というような考えも昔はあったかもしれません。
しかし、現在はネット社会であり、多くの船員はネット環境の優れた船に乗ることを望んでいます。
実際に、多くの船社は優れた人材を確保するためにインターネットや船内の居住空間を充実させるという施策を行っています。
今後、船内の通信インフラがより良いものに進化していくことを願っています。
以上が、外航船のネット環境についての説明でした。
私自身、ネットのない生活は耐えられないような人間なので、このような衛星通信技術の発展をとても有難く思っています。
文中でも説明しましたが、船内の通信環境は会社によって、また乗る船によってバラバラですので注意してください。
ここまで読んでいただきありがとうございました!