皆さんは工場の写真などで長く伸びているパイプライン(配管)を見たことはありますか?
外航船の船内も工場みたいなものなので沢山の配管が存在します。
そして、よく見ると配管は途中でコの字に曲がっていることがあります。
今回は、配管が途中で曲がっている理由について説明していきたいと思います。
船内の配管
これは船内の配管を撮った写真です。(ピントが合ってないですが…)
写真を見ると途中でコの字に配管が曲がっている部分があることが分かると思います。
実は配管がコの字に曲がっている部分には名前があり、Expansion Loopと呼ばれています。
Expansion Loop
Expansion Loopの役割
Expansion Loopは直訳すると「膨張の輪」ということになります。
訳したところでイマイチ意味が分からないですが、
Expansion Loopの役割は、熱による膨張や収縮を吸収することです。
皆さんも金属が熱によって膨張したり収縮したりすることをご存知だと思います。
金属で作られている配管も当然熱膨張、熱収縮します。
金属が温度変化によってどれだけ伸びるかは熱膨張率(熱膨張係数)という言葉で表されます。
仮に熱膨張率が10-5/K(鉄はだいたいこれぐらいの値です)とすると、温度が1℃上昇すると1kmの配管は1cm膨張、100mの配管は1mm膨張することになります。
夏と冬で40℃程度配管の温度差があるとすると、100mの配管は4cm膨張収縮します。
数センチ伸び縮みしたと聞くとあまり大したことのないように感じてしまいますが、配管を固定している端部には伸び縮みした配管を元に戻そうとする大きな熱応力が発生します。
先程挙げた例で、1kmの配管が40℃温度変化したときには40cm熱膨張することとなり、
このとき配管の端部には40cm配管を縮めようとする力が働きます。
鉄の配管を40cm縮めるだけの力と考えればその力の大きさが伝わると思います。
Expansion Loopの仕組み
Expansion Loopが熱応力を吸収する仕組みは簡単に示すと上の画像のような形になります。
熱膨張または熱収縮が発生した際にコの字の部分が広がったり閉じたりすることで、メインの配管の両端部にかかる力を吸収しているのです。
(説明用に強調して描いているだけで、実際は目で見て分かるほど変形することはないです)
Expansion Loopの配置
ここまでで説明してきたように、Expansion Loopを設置することで配管にかかる熱応力を軽減することができます。
では、「沢山Expansion Loopをつければいいのではないか」という意見も出てくるかもしれません。
しかし、Expansion Loopをつけることにデメリットもあります。
それは、
・配管の全長が長くなってしまいコストが高くなる
・配管に曲がりが増えると流動抵抗となり、圧力損失が生まれる
ということです。
分かりやすくまとめると、お金がかかるし配管の中を通る液体が流れにくくなるということになります。
では、どのようにしてExpansion Loopの配置や大きさ、設置数などを決めているのでしょうか。
これは設計段階でシミュレーション解析を行い最適な配置が決められています。
想定される温度環境下において、十分な耐久性をもち、それでいてコスト面でも圧力損失の面でも無駄が少なくなるように設計されているのです。
ただの配管一つでも色々考えられて作られていることを知ると、今までとはまた違った視点で物事を捉えられるかもしれません。
以上が、配管が途中で曲がっている理由についての説明でした。
普通の人はなかなか船の中の配管を見る機会はないと思いますが、工場の配管なども同じように作られているので機会があれば配管に注目してみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました!