船のことをあまり知らない人に「機関士をしている」ということを話すと、
「機関士って船で何をしているの?」と質問されることが多いです。
今回は外航船に乗る機関士の仕事について説明していきます。
機関士の仕事
陸上で働くエンジニアとの違い
別の記事で船内で働く人は大きく分けると、"Deck(航海士)","Engine(機関士)","Catering"の三つのグループに分類することができると説明しました。
この中で、航海士の仕事は船を操縦することだというのはイメージがつかみやすく(実際は他にも貨物の管理など色々な仕事があります)、
またCateringの仕事も船内で食事を提供することなのでイメージがつかみやすいです。
これらに対し、機関士(エンジニア)の仕事というのは中々イメージが掴みづらいようです。
陸上の仕事でエンジニアというのを考えると、自動車の整備士や航空機の整備士などがすぐに思い浮かびます。
しかし、これらの仕事は船の世界で置き換えたときには、ドック(船の修理工場みたいなもの)で働く船舶修繕業者の仕事に近いです。
というのも、自動車や航空機のエンジニアは当然車や飛行機を停止し、整備工場に入れた状態で整備を行うからです。
一方で船舶で働くエンジニアは、基本的に船が航行している状態で様々な箇所の整備や点検を行います。
車が走っているときに車内で整備を行っている、飛行機が飛んでいるときに機内で整備を行っていると想像したらまったく異なることが分かると思います。
何故船内にエンジニアが必要なのか
ここまで話を聞いたら、「自動車や航空機のように修理工場で全ての整備作業を行えばいいのではないか」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、船舶の場合それではダメな理由があります。
それは基本的に、船は壊れながら走っているからです。
船舶で使用される機械は非常に過酷な状況下で使用されています。
潮風や海水が機械に悪影響を与えるというのは周知の事実ですし、船の機械は24時間365日ずっと動き続けています。
日本から欧州に船で向かった場合には一か月近くの時間がかかります。
一か月の間、一度もエンジンを切らずに走り続けている自動車や航空機は存在しないと思います。
こういった状況で様々な機械が酷使され、船内の機械は少しずつ壊れていきます。
そのため、次の修理工場まで何もメンテナンスをしないで航行することは不可能なのです。
機関士の具体的な仕事内容
では、機関士が船内でどのような仕事をしているのかを具体的に説明していこうと思います。
三等機関士(3/E:3rd Engineer)
3/Eは機関部の雑務と担当機器の整備を行います。
担当機器は会社や乗る船種によって少しずつ異なるので一概に決めることはできませんが、基本的には後で説明する二等機関士、一等機関士が担当するもの以外の全ての機器です。
3/Eの担当する機器は、万が一トラブルが発生したとしても直ちに船の運航に影響を与えるものは少ないです。
一つ一つの作業量や作業難度は高くありませんが、塵も積もれば山となるということでテキパキと仕事をこなしていかないと大変なことになります。
二等機関士(2/E:2nd Engineer)
2/Eは主機以外の重要補機を担当します(これも船種によって変化します)。
例えばディーゼル船の場合は発電機、タービン船の場合はボイラーなどです。
2/Eの担当機器はトラブルが発生すると船の運航に支障をきたす可能性があります。
しかし、同じものが複数個搭載(発電機を4台設置など)されている場合が多く、他の機器が正常に運転していれば持ちこたえることができます。
一等機関士(1/E:1st Engineer)
1/Eは機関部の主任者として主機と機関部のマネジメントを行います。
主機は一つしかないことが多く、主機の故障はそのまま船の運航停止を意味します。
担当機器は主機ですが、主機の大規模な整備作業を行うことができるのは停泊中やドックに入渠している間だけなので、機関部内の人員のマネジメントや甲板部との作業打ち合わせなど、機器のメンテナンス作業以外の仕事がメインとなります。
機関長(C/E:Chief Engineer)
C/Eは機関部の最高責任者です。
機関長になると現場に出て作業する機会は減りますが、万が一船内の機器に大きなトラブルが発生した場合には最高責任者としての責任を問われることになります。
そのため、常に船内の機器の運転状態に注視し、必要であれば整備を指示する必要があります。
船全体の運転状態の管理がC/Eの仕事であり、経済運航、安全運航が実現できているかを日々のデータから確認します。
以上が外航船における機関士の仕事内容についての説明でした。
具体的な機械について掘り下げていくことも可能ですが、あまり詳しく説明しても分かりづらくなってしまうので基本的な部分だけを解説しました。
各担当機器の細かい話については、また別の機会に話していきたいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!