近年、CO2排出による地球温暖化問題の解決方法の一つとして、
アンモニアを燃料として用いる船舶エンジンが話題に挙がっています。
今回は、アンモニア燃料エンジンとは何かについて説明していきたいと思います。
アンモニア燃料
アンモニアとは
皆さんはアンモニアと聞くとどんな印象を持ちますか?
刺激臭のする気体、尿に含まれているという意見をもつ人も多いと思います。
これまでアンモニアは主に化学肥料の原材料として利用されてきました。
しかし、近年ではアンモニアを燃料として利用する技術が開発されています。
アンモニアは燃焼してもCO2を発生しないため、地球温暖化防止に有効だと考えられているからです。
アンモニアの生成方法
アンモニアを生成する方法にはハーバー・ボッシュ法と呼ばれる反応が用いられています。
反応式からも分かる通り、アンモニアは水素と窒素があれば作ることができます。
窒素に関しては空気から比較的簡単に取り出すことができるので、水素を作る方法が重要となります。
現在、水素を作る方法としては天然ガスと高温の蒸気を反応させることで水素を取り出す方法と水を電気分解して水素を取り出す方法の二種類が主に使用されています。
CO2ゼロエミッション
冒頭で「アンモニアは燃焼してもCO2を発生しない」と述べましたが、上図で示した反応式からも分かる通り、天然ガスから水素を生成する段階でCO2が発生してしまいます。
また、水を電気分解する際のエネルギーに火力発電所の電気エネルギーが使われていた場合には、結局CO2が発生しているということになります。
そのため、本当の意味でCO2ゼロエミッションを達成するためには、これらの問題を解決する必要があります。
天然ガスから水素を生成する工程で発生するCO2は、CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage:二酸化炭素分離貯蔵技術)と呼ばれる方法でCO2が大気中に放出されるのを防ぐことで疑似的にゼロエミッションの状態を作り上げます。(系統全体で考えたときにCO2排出がゼロとなる。このことをカーボンニュートラルと呼びます。)
この方法で作られた水素を用いて生成したアンモニアはブルーアンモニアと呼びます。
一方で、水の電気分解から水素を生成する方法では、分解に使用する電気エネルギーを太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーにすることでCO2の発生をゼロにすることができます。
この方法で作られた水素から生成したアンモニアはグリーンアンモニアと呼びます。
つまり、ブルーアンモニアやグリーンアンモニアを燃料として用いることで論理的にはCO2ゼロエミッションを実現することができるのです。
アンモニア燃料エンジンの課題
ここまでで、アンモニア燃料エンジンが地球温暖化を解決する可能性を秘めた素晴らしい技術であることは伝わったと思います。
しかし、アンモニア燃料エンジンを実現するためにはまだまだ乗り越えないといけない壁がいくつか存在します。最後にアンモニア燃料エンジンの課題について説明していきたいと思います。
アンモニアは燃焼しにくい
アンモニアは軽油や天然ガスなどと比較して着火温度が高く、燃焼速度が小さいことで知られています。これは燃焼しにくいことを示しています。
燃焼しにくいということはエンジンの始動性が悪くなる、未燃焼ガスが増加することでエンジンの出力が低下する、未燃燃焼ガス(アンモニア)よる腐食が発生する、…など様々な不具合が発生する恐れがあります。
これを解決するため軽油や水素を補助燃料として用いたアンモニア混合気を燃焼させるエンジンが研究開発されています。
実際に混合比や燃料の噴射タイミング等を調整することでアンモニア燃料を安定燃焼させることに成功しているようです。
しかし、寒冷地など様々な条件下でもエンジンを容易に始動できるかのかどうかは疑問が残る部分ではあります。
アンモニアはNOxを発生する
「CO2ゼロエミッションで地球温暖化を防止できる」と簡単に説明してきましたが、実はアンモニアを燃焼した場合にはNOx(ノックス)と呼ばれる窒素酸化物が発生します。
このNOxはCO2の310倍近くの温室効果を持つことで知られています。
つまり、CO2が発生しなくてもNOxを大気中に放出してしまってはまったく意味がないのです!
これに関しては燃料の燃焼条件を調整したり、燃焼排気ガスを後処理することで排気ガス中のNOx成分を低減させる技術が用いられています。
この技術自体はトラックやディーゼル車の「アドブルー」などにも長年使用されている技術と類似したものであり、それほど技術的な難易度は高くないと思われますが、地球温暖化防止のためには注意しなければいけない点であることは間違いありません。
アンモニアの単位体積あたりの発熱量は小さい
アンモニアは軽油等と比較して単位体積あたりの発熱量が約三分の一になっています。
燃料ごとに熱効率など様々な要因が変化するため簡単に決めつけることはできませんが、単位体積あたりの発熱量が三分の一ということはこれまでの船と同じ距離を航行するためには今までよりも三倍量の燃料を持たなければならないことを意味します。
つまり、燃料タンクが大きくなり、貨物を積載するためのスペースが小さくなります。
これは燃料のもつ化学的な特性の問題であり、解決することはできません。
アンモニアの生成コスト
アンモニアの生成コストは現状では単位熱量換算で低硫黄A重油(船舶で主に使用されている軽油のこと)の4倍程度だと言われています。
つまり、単純計算で輸送コストが4倍になることを意味します。
このコスト増加が船舶会社、商品の運送を依頼している顧客、あるいは最終的な消費者にどのような形で還元されるのかは気になるところです。
アンモニアの供給量
アンモニア燃料エンジンが実現し、様々な分野に供給され始めると当然燃料であるアンモニアの需要も増加します。
現在のアンモニアの生産量ではこの需要増加には対応することができません。
これを見越して様々な企業がアンモニアに関連するインフラ整備を始めています。
このインフラ整備に伴って、先ほど述べたアンモニア生産コストも低下していくかもしれません。
いずれにせよ、「アンモニア燃料」は昨今の地球温暖化防止対策として最もホットな話題であることは間違いなさそうです。
以上がアンモニア燃料エンジンについての説明でした。
この記事は現状公開されている情報のみで作成したものなので、研究開発の最先端はもっと進んだものになっていると思います。
今後もアンモニア燃料分野の発展に期待していきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!